趣味時間は「非生産的」でいい。多忙な人が心を満たすための思考転換術
多忙な日々の中での「仕事脳」と趣味時間
日々の業務に追われ、限られた時間の中で効率的に成果を出すことに慣れているビジネスパーソンにとって、ようやく確保できた趣味の時間も、つい「生産的」に過ごさなければという意識が働いてしまうことは少なくありません。せっかくの趣味なのに、「もっと上達しなければ」「この時間で〇〇を達成しないと」といった考えが頭をよぎり、結果として心からリラックスしたり、純粋に楽しんだりすることが難しくなっているケースが見受けられます。
趣味は本来、仕事の延長線上にあるものではありません。しかし、無意識のうちに仕事での評価軸や時間管理の感覚を持ち込んでしまい、趣味がもう一つのタスクのように感じられてしまうことがあります。この状態では、趣味が心身のリフレッシュや活力の源泉となるどころか、新たなプレッシャーになってしまう可能性も考えられます。
本記事では、多忙な日常から趣味時間へのスイッチをスムーズに行い、心から満たされる時間を過ごすための「思考転換術」と、その実践的なヒントをご紹介します。
なぜ趣味時間も「生産性」を求めてしまうのか？
私たちは仕事において、常に目標設定、計画立案、実行、評価、改善といったサイクルを回すことに慣れています。これはプロフェッショナルとして当然の姿勢であり、成果を出すためには不可欠なスキルです。しかし、この「生産性」や「効率」を追求する思考様式が、趣味の時間にも及びやすい傾向があります。
考えられる要因としては、以下のような点が挙げられます。
- 習慣化された思考パターン: 長年の仕事習慣により、「時間を有効活用する＝何かを生み出す・達成する」という思考パターンが固定されている。
- 成果主義の価値観: 仕事で評価されるのは成果や結果であるため、無意識のうちに趣味でも「形に残るもの」「上達した実感」を求めてしまう。
- 限られた時間への意識: 貴重な趣味時間だからこそ、「最大限に活用したい」という思いが焦りを生み、「早く上達したい」「たくさんのことを経験したい」という欲求につながる。
- 他者との比較: SNSなどで他者の活動を見る機会が増え、「あの人はこんなに上達している」「こんなに多様な趣味を楽しんでいる」といった情報に触れることで、無意識のうちに自分自身の進捗や成果を比較してしまう。
これらの要因が複合的に絡み合い、趣味が「楽しむための時間」から「達成するための時間」へとすり替わってしまうことがあります。
思考転換の第一歩：「非生産的」の価値を受け入れる
趣味の時間を心から楽しむための最も重要な思考転換は、「趣味時間は非生産的で良い」という価値観を受け入れることです。仕事においては生産性や効率が求められますが、趣味の時間は、それらを手放し、純粋な好奇心や楽しみに身を委ねるための時間と捉え直してみましょう。
「非生産的」とは、何も生み出さない、無駄な時間ということではありません。それは、短期的な成果や効率を追求するのではなく、その行為自体に意味を見出し、心の充足やリフレッシュを目的とする時間の使い方です。
例えば、 * 絵を描くことが趣味なら、「素晴らしい作品を完成させる」ことではなく、「色を塗る過程」「線の重なり」自体を楽しむ。 * 読書が趣味なら、「何冊読むか」「内容をどれだけ覚えるか」ではなく、「物語の世界に浸る」「新しい視点に触れる」といった体験そのものを味わう。 * 散歩が趣味なら、「何キロ歩くか」「どれだけカロリーを消費するか」ではなく、「季節の移ろいを感じる」「風の音に耳を澄ませる」といった感覚的な体験を大切にする。
このように、趣味の時間を「成果を出すための投資」ではなく、「心を養うための時間」と位置づけ直すことが、思考転換の出発点となります。
「成果」ではなく「プロセス」に焦点を当てる実践ヒント
「非生産的」の価値を受け入れた上で、さらに具体的に趣味時間を楽しむための実践的な思考法と行動をいくつかご紹介します。
1. 目的を持たない時間を作る
趣味を始める際に、「これを達成したい」「このスキルを習得したい」といった具体的な目標設定も有用ですが、時にはあえて明確な目的を持たずに始めてみましょう。「なんとなくやってみたい」「面白そうだから触れてみる」といった、純粋な好奇心に従う時間を意識的に設けます。
例えば、楽器演奏なら「一曲マスターする」ではなく「ただ音を鳴らしてみる」、手芸なら「作品を完成させる」ではなく「色々な素材を触ってみる」といった具合です。目的がないからこそ、予想外の発見があったり、気の向くままに寄り道ができたりと、より自由な楽しみ方が可能になります。
2. 「完璧主義」を手放し、「試行錯誤」を楽しむ
仕事では失敗が許されない場面も多いですが、趣味の時間では「失敗」もプロセスの一部として楽しみましょう。思い通りにいかないことや、予想外の結果になることこそが、新しい発見や学びにつながります。
- 「うまくできない」ことに落ち込むのではなく、「どうしたら面白くなるかな？」と遊び心を持って試してみる。
- 完成度を気にしすぎず、まずは「やってみる」ことに価値を置く。
- 計画通りに進まなくても気にしない。その時の気分や発見に合わせて柔軟に方向転換する。
仕事での高い基準値は一時忘れ、趣味の時間だけは自分に「不完璧」であることを許容してみましょう。
3. デジタルツールや情報から距離を置く時間を作る
多忙なビジネスパーソンにとって、情報収集や効率化のためにデジタルツールは不可欠です。しかし、趣味の時間にまで情報過多な状態を持ち込んでしまうと、心が休まりません。
- 趣味の活動中は、スマートフォンをサイレントモードにするか、視界に入らない場所に置く。
- 他者の成果やレビューを過剰に気にせず、自分自身の感覚や体験に集中する。
- 敢えてデジタルツールを使わない趣味（手書きのノート、アナログカメラ、自然の中での活動など）を選んでみる。
五感を使い、目の前の活動に没頭する時間を持つことで、デジタル疲れからも解放されやすくなります。
4. 「休憩」や「中断」もプロセスの一部と捉える
多忙な日々では、趣味の時間をまとめて確保するのが難しい場合も多いでしょう。短い時間しか取れなかったり、途中で中断せざるを得なかったりすることも頻繁にあるかもしれません。
しかし、それらを「失敗」や「非効率」と捉える必要はありません。15分の休憩時間に好きな本を開くこと、作業の途中で一度手を止めて別のことを考える時間も、すべて趣味を楽しむプロセスの一部です。中断があっても、また再開すれば良いだけです。細切れの時間でも、その瞬間の「楽しい」「心地よい」といった感覚を大切にしましょう。
継続のコツ：心満たされた瞬間に気づく
このような思考転換は、一朝一夕にできるものではありません。仕事の習慣から完全に切り離すことは難しいと感じることもあるでしょう。しかし、大切なのは「意識すること」そのものです。
「あ、今、つい仕事みたいに成果を求めていたな」「この時間は何も考えずにただ楽しもう」と意識する瞬間があれば、それはすでに思考転換の第一歩を踏み出しています。
そして、趣味の時間中に心が満たされた瞬間、「ああ、楽しかったな」「心が軽くなったな」と感じた時に、その感覚を意識的に捉えてみてください。それは、何かの成果を達成した時とは違う、内側から湧き上がる充足感のはずです。その小さな成功体験、心が満たされた瞬間を積み重ねていくことが、趣味を継続し、心身の健康を保つための大切な鍵となります。
まとめ：趣味時間は、あなた自身のための「余白」
多忙な日々を送る中で、趣味の時間は単なる息抜きや気晴らしではありません。それは、仕事という役割から離れ、一人の人間として自分自身の内面と向き合い、心を満たすための大切な「余白」です。
この余白を「生産的」に埋めようとするのではなく、「非生産的」な時間として大切に育んでいくことで、仕事のパフォーマンスとは異なる基準での自己肯定感や、新しい視点、そして何よりも、心からのリフレッシュと活力を得ることができるでしょう。
今日から、ほんの短い時間でも構いません。あなたが心から「楽しい」「心地よい」と感じられる瞬間に、成果や効率を一切持ち込まず、ただ身を委ねてみてください。その小さな一歩が、より豊かで充実した日々への扉を開くはずです。